▶回路評価報告書での周波数偏差の意味は「水晶振動子単体の仕様」とは異なる
「周波数偏差」というのは、一般的には水晶振動子の仕様項目として25℃における周波数のずれ具合のことを意味しています。
しかし、「回路評価における周波数偏差」という用語は異なる意味で使っているので注意が必要です。
端的に言うと「回路評価における周波数偏差」というのは、「回路(基板)と、搭載されている水晶振動子の周波数の基準のずれ」と言ってもよいです。
▶「回路の負荷容量」と「水晶振動子の負荷容量」が異なると周波数ずれが起こる…これが評価報告書での「周波数偏差」
「負荷容量」という用語には2 つの使われかたがあります。
「回路の負荷容量」と「水晶振動子の負荷容量」です。
もし「回路の負荷容量」と異なった値の負荷容量の水晶を基板に搭載すると周波数ずれが起こります。
ですから、たとえ水晶メーカが水晶振動子単体の周波数偏差0ppmの製品を作って納入しても、基板上では周波数ずれを起こすということです。
回路評価報告書における「周波数偏差」というのはこのずれのことであって、ここがわかりにくいポイントの1つです。
▶製造ラインでの「負荷容量」
ユーザから「回路の負荷容量」が8pFであると指示がある場合、水晶メーカは「水晶振動子の負荷容量=8pF」として製造ラインで水晶を製造します。
具体的には周波数調整工程で水晶に8pFの容量を直列接続して、発振させながら所定の周波数に作り込みます。
イメージとしては図4のようになります。
ここでもし「回路の負荷容量」が8pFでなかったら、水晶メーカが「水晶の負荷容量」を8pFとして0ppmの製品を作ったとしても周波数ずれが起こります。
または、ユーザが8pFで周波数を測定したその基準と、水晶メーカの基準がずれていたらやはり周波数ずれが起こります。
そのずれのことを「回路評価報告書における周波数偏差」と言っているのです。
▶「周波数偏差」のトラブル実例
実例としてあるユーザが回路マッチングをしないで3.2×2.5mm、25MHz、負荷容量8pF、
周波数常温偏差の規格±10ppmの振動子を使って量産に入り、偏差不良として不具合解析依頼があった事例について説明します。
送られてきた実物回路を評価したところ、下記のような結果でした。
● 回路基板上での周波数偏差は+61ppm
● 負荷容量8pF で製造した水晶単体での周波数偏差は-1.7ppm
この水晶は単体としては良品です。
回路評価報告書における周波数偏差というのは、水晶単体の偏差の値を求めて、その値を基準として、
つまり0として基板(回路)上での周波数のずれ具合を示した値です。
ですから振動子単体の周波数偏差がどのような値であろうとも、
回路マッチングにおける周波数偏差の値は同じになるということです。
したがって今回の場合は、開発段階で回路マッチングを行っていなかったために、もともと基準がずれており、
周波数基準がずれた状態で量産に入ったということです。
ユーザからの「回路の負荷容量=8pF」の指示が適正な値であったのか、
あるいはユーザの8pFの基準と水晶メーカの基準が一致していたのか、そのあたりは明確ではありません。
今回の場合、「水晶単体は周波数偏差が-1.7ppmの良品であっても、
回路マッチングをしていなかったので基準がずれており、
そのため偏差不良のトラブルが起こった」という内容でユーザに説明して納得されました。
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