▶水晶を発振させるためのICのもっているパワー
水晶発振のためのICは、どの周波数ならば最もパワフルに駆動するかという周波数特性をもっています。
これを「負性抵抗の周波数特性」と言います。
ICのデータシートにはそのICが最もパワフルに駆動する周波数が記載されています。
水晶振動子は電流を通し難くする抵抗の働きをするので、発振回路のICなどで水晶の抵抗成分を打ち消して発振を起動させる力(発振起動力)、
そして発振を継続させるパワーが必要です。
ICがもっているこの発振させるパワーのことを負性抵抗(-R)と言い、単位はΩで表します。
▶マイナス×マイナスでプラスになる
「負性抵抗」はわかりにくい概念ですが、「抵抗」というものがもともと電気の流れにとってはマイナスの力で、
その「抵抗」の前に「負性」を付けてあるので、マイナス×マイナスでプラスになるわけです。
要は「負性抵抗」とはプラスのパワーです。発振回路において水晶を起動発振させ、発振を継続させるパワーだと考えればよいでしょう。
これに対して、ESR(等価直列抵抗)は発振を阻害するマイナスのパワーです。
「発振に対するプラスのパワーとマイナスのパワーをΩという単位で比べる」ということです。
▶回路マッチングの第一目的はICのもっているパワーを最大限に引き出すこと
回路マッチングの第一の目的は、ICのもっているパワー、つまり負性抵抗を最大限に引き出すような諸条件を見つけることです。
回路を受け取った段階でこの負性抵抗がどれだけあるかを確認することが、最も重要な作業になります。
その値によって、その後の解析の方向性が大きく左右されることになるからです。
パワーが足りない場合は、最初にパワーが最大限になるようにいろいろな調整をすることになります。
▶ICのもっているパワーと搭載されている水晶の抵抗成分の比
ICのもっているパワー(負性抵抗)を最大限引き出したら、
次にそのパワーと搭載されている水晶振動子の抵抗成分(発振阻害要因)と大きさを比較します。
ICのもっているパワーを最大限引き出しても水晶がそれを上回る抵抗成分をもっていたり、両者が拮抗したりしていると、
将来量産に入って電源を入れても発振開始しない、あるいは部品のばらつきなどによって発振不安定、
ないしは発振停止などのトラブルを起こすおそれが生じてきます。
▶発振余裕度の計算ではESRの規格値を用いる
購入する水晶は当然規格の範囲内でばらつきがあり得るので、このばらつきの最悪の値、
つまり規格値であるESRを前提としてICがもっているパワーと比較して、それを何倍という倍率で表現したものが発振余裕度です。
つまり発振余裕度というのは、ESR値が規格値ぎりぎりの水晶振動子が搭載されたと仮定した場合に、
その回路(IC)がどれだけ余裕をもって発振させる力をもっているかを倍率で表したもので、あくまでも仮定の数値です。
▶水晶は回路に搭載するとESR値が大きくなる…負荷時等価抵抗
意外と気づかれないのが「水晶は回路に搭載するとそのESR値が大きくなる」という事実です。
大きくなった値のことを「負荷時等価抵抗RE 」と言います。
REの算出には公式があるのでESR値、並列容量C0、負荷容量CLなどの値を明確にして計算します。
そのうえで具体的に、実測で求めたパワー(負性抵抗)と、負荷時等価抵抗を比較してその比を求めます。
後述の式(1)を参照してください。
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